「良子さん、星の道って知っていますか?見たことがありますか?」徳ちゃんが言った。
「えっ?何?星の道?」「見たことがないの?見に行こう。」私たちは徳ちゃんの所有する、「海遊丸」に乗って夕焼けの中を出航した。真っ赤な太陽が水平線の向こうに沈んでいく。
「お母さん、綺麗だなあ、今日は夕日がとっても大きく見えるな。」夫は早くも詩人になっていた。
水平線に沈んでいく夕日の赤と海の青のコントラストが美しい。(これが良くて宮古島に住んだんだよ、お父さん。)私は心の中で囁いた。時間をかけて沈んでいく夕日は本当に美しい。最後の最後まで見つめていた。
こうして、徳ちゃんの船に何度乗せてもらってだろうか。海釣りの醍醐味も楽しさも、みんな徳ちゃんに教えてもらった。引越しから現在に至るまで、私たちの生活は徳ちゃんなしでは語れない。
徳ちゃんと娘「さあ、釣るぞー」 |
大自然の中で船に揺られて食べるおむすびは本当に贅沢でこの上なくおいしく感じる。
「今日は大物を釣ろう」と言いながら、海の上を海遊丸は進んでいった。
「あっ、良子さん、ほら!海ガメだよ。」「えー?見えなかった!」「ほら!あそこ、あそこ!」「わからなーい!」
そんな会話を楽しみながらポイントに近づいていく。
夕日が沈んでいくと頭の上には月が輝きだす。でも、まだ、空は明るく星が出るまでには時間がかかる。
「そろそろ、お魚さんと遊びましょうか?」徳ちゃんの声で私たちは竿を下ろし出した。
娘は徳ちゃんの横の特等席。私と夫は前の席に座り「今日の目標は流れ星3つとお魚10匹」
「俺は流れ星4つとお魚5匹」「あれ?馬鹿に遠慮しているじゃないの?」「だって、俺は地球と仲良しだから、珊瑚が5個釣れる予定だもん。」いつも、私のほうが多く釣るので、釣りを始める前からちょっとすねている感じだった。
やがて、あたりは暗くなり気がつくと、空は満天の星空になっていた。
「満天の星の下で君に愛を告げよう。」
作詞を手がけている私は、すぐにメモをした。こんな風にちょっとでも、いい感じのフレーズが思いつくとメモをしておく。また、何かの機会にこの後の詩が頭に浮かぶかもわからない。魚を釣りながら星空を楽しむ。・・・なんという贅沢・・・「あっー!」娘が声をあげた。「なに?」「流れ星!」「うそー?もう見たの?」「うん。素晴らしい結婚が出来るようにお願いします。」「あなた、流れ星にお願いするときには星が流れているときでないとだめなのよ。」「だって、流れ星を観ている時に願い事なんて絶対無理だよ。そんな短い時間に願い事なんて出来ない。だから私は考えたの。終わってからゆっくりお願いしようと・・・。」「ふーん。」
そんなことを言いながらまた、えさを取られた竿をゆっくりと下ろす。釣竿も気になるけど、流れ星も気になる。上を見たり竿を見たり、飲み物を飲んだり、えさを付けたり、船の上は大忙しだった。
そのとき徳ちゃんの竿が動いた。「あれ?おかしいな?この感触はお魚さんじゃあないぞ!」「どういうこと?」「おかしい、何か変だぞ。お魚さんならこんな動きはしない。潔さん、ちょっと代わってみて。」「あっ、本当に変ですね。すごいひきだな。」「ほら、良子さんもやってみて!」「いや!」「ほら、やってごらんよ。」「いや!」やめて良かった。「サメだ!サメ。」「船の下に入ったぞ!まずい!」「うそー!」「こわーい!」悪戦苦闘の末、とりあえずサメを吊り上げて糸を切った。船の横にはもう1匹のサメがぐるぐると回っていた。「ペアだね。」「子供かもしれない。」「あっ、二匹でどこかに泳いでいった。」「これじゃあ、魚が釣れない訳だな。場所を変えよう。」徳ちゃんが言った。でも、その前に一休み。徳ちゃんも体力を使ったのだろう。2mもあるサメと格闘したのだから。
「やった!徳ちゃん、釣れたよ!」 |
場所を変えて竿を下ろした。ヒメダイやフエフキダイが結構釣れた。「いい感じだね。」徳ちゃんや夫の機嫌がいい。私は50cmの大物を釣り上げた。(後日談だけど3日くらい筋肉痛で苦しんだ。)
時間が過ぎていく。だんだんと釣れなくなってきた。海の中に目をやると、青い光がきらきらと光っている。「海ほたるだ!」娘が嬉しそうに声を上げた。「本当!これじゃあ釣れないよねー。」釣り糸の周りには海ほたるがいっぱいで、海の底に道が出来ていた。手を入れるとキラキラと光っている。前にも書いたと思うけれど、まるでスパンコールの手袋をしているみたいに綺麗。手を動かしてみる。キラキラ、キラキラ。手の動きに合わせて光を放っている。「綺麗。お母さん、見て!」「うん、すごいね。綺麗だね。」娘がはしゃいでいた。
この日は波もなくて本当に穏やかな海だった。
10時になると、ホテルの電気が消える。そうすると、あたりは真っ暗。そろそろ港に帰る時間だった。
空を見上げると、真上に天の川。私は、流れ星は見ることが出来なかったけれど、徳ちゃんの推薦、星の道は見ることが出来て感謝感激!だった。
穏やかな水面にまっすぐに伸びた星の道はオレンジ色に輝き、夜の空の星に届いていた。大きな星の光は波に揺れて,幅が広がったり狭くなったりしている。ビルの明かりが水面に映っているように、ここ、宮古島では夜空の星が海にオレンジの道を作り出す。
海の中の夜光虫は宮古島では「海ほたる」と呼ばれている。宮古島の男性は実にロマンチストなのである。釣りをしながら夕日を眺め、海ほたるに話しかけながら竿を下ろす。
ちょっと疲れると星を見つめ、月や星が作り出す幻想の世界に触れて、船を出す。
この日は大漁とまではいかなかったけれど、リフレッシュするには充分なときを過ごせたと思う。
徳ちゃん、いつもありがとう。